Earth Design Project
ひとりひとりから始まる あらたな ヒト/HITO の ものかたり
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着脱自在
2013-01-17
ベクトル
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去年の11月、数年ぶりにメガネを作り替えました。
前につくったのは何時だったのか 思い出せないほどですが、訪ねたメガネ屋さんには 当時の記録がちゃんと残っていました。
その店を知ったのは たぶん ある古武術研究家の方の文章だったと思います。どこまで見えるかという いわゆる「視力」に重きを置くのではなく、目に負担をかけず 身体が楽に見ることのできるメガネをつくってくれるところなのです。…と分かったふうに書いていますが、今回伺うまで その大切な“視点”を 私はすっかり忘れていたのでした。
前回伺った時に 近くを観るデスク用のメガネ(*老眼鏡ではありません。念のため)と遠くを見るメガネ の2種類を作ってもらいました。でも 近くは「見える」ので 使うのはもっぱら遠くを見るメガネ、それも 普段はほとんど使わず、講義や旅行の時など 遠くの文字を見る必要に迫られた時のみ という状態でした。それが 昨年の後半あたりからでしょうか、パソコンを見る時に 目がとても疲れることに気づき デスク用のメガネを使い始めたのです。すると 目がかなり楽になりました。そうやってしばらく使っていたのですが、次第に メガネのフレームに頭が締め付けられるような感じが強くなり それはやがて不快感へと変わっていきました。
メガネのフレームを変えよう と思ったものの、そのメガネ屋さんは ちょっと遠い場所にありましたから、なかなか訪ねることができません。ようやく 去年の11月に その方面へ行く用事ができたので 合わせて伺うことにしたのです。
前回の検査で印象に残っているのは 私の心/意識の癖(と思われること)を 私の“物の見方”から解説してくれたことでした。そして今回も 視力の検査によって “その時までの私のありよう” についての気づきを与えてくれたのでした。
一般的なメガネをつくるための検査は よく見えるかどうか という視点から 視力を矯正するためのものです。が、ここでの検査は 両眼の機能を考慮し 楽に見えることを目指します。そして更に 心と身体は密接に関わっているという立場から その人の持っているよきものをサポートする という視点が加わるのです。
…というのが このメガネ屋さんのスタンスなのですが、実際の検査のどの部分が どれに相当するのかは、私には 分かっていません(苦笑)。ただ 今回の視力機能検査が まるで 精神世界のワークショップのように私へ作用したことは確かです。
いろいろとメガネのレンズが変られていく中で 私は「怖いという感じ」「閉じ込められたような気がします」「自分じゃなくなるみたい」という印象を伝えました。(こういう反応を普通に受け止めてくれるメガネ屋さんも そう多くないような気がします。笑)そんなやりとりを幾度か繰り返すうちに 私の中の恐怖心がクローズアップされ 思わず涙がこぼれてしまいました。お店の方は そんなことが起こっても動揺することなく 私の涙が止まるまで見守ってくれ、そのあと「いまやっているのは 目が楽になるような調節なんだけどね」と おっしゃったのです。「(私が否定的な反応を伝える調節によって)身体は楽になっているはずなんです」。
よく見えると 脳は満足しますが、身体がひずみを抱えている場合その負担は 大きくなります。私の場合 脳の満足度を優先させたことで ひずみのある身体に更なるひずみが生じ その現れのひとつが 乱視という眼の状態となっていたのでした。その状態を正しく認識しないまま 自己流の身体の調節で ものをよく見ようとした結果、不自然な“見る癖”がついていたようです。そしてその癖が あまりにも長く続き 私の意識が“不自然な状態”を“普通のこと”として捉えることに慣れてしまったので、本当なら身体が緩んでいる心地よい状態を 自分じゃなくなるみたい と思ってしまったようでした。
おもしろいことに そういうやりとりをしながら 私の脳に正しい情報を与えていると 視力の測定値が良くなっていくのです。
お店の方が言うには 私は かなり無理な力を使って ものをみていたとのこと。「しばらくは 頭がぼーっとするかもしれませんが デスク用のメガネを集中的に使ってみて下さい」とアドバイスを受けました。
新しいメガネが届くまでの10日ほどは 以前つくったデスク用のメガネを つなぎとして、以来ずっと デスク用のメガネを かけ続けています。そして実際 最初のひと月は 額や顎や首や背中や仙骨などの凝りや内蔵の疲れが顕在化し やがて ほぐれていく というプロセスを リアルに感じることができました。
今回 視力機能検査をしてもらう数ヶ月前から当日の朝まで 徐々に 前頭葉にエネルギーが集中する傾向が強くなり 凝り固まっていく印象があったのですが、メガネをかけ始めた途端 それがなくなったのです。
視力がよいからと言って 眼に負担をかけていないわけではありません。
単に視力の検査だけで来た人が いわゆる視力はよいものの 眼や身体へに大きな負担をかけて ものを見ていることが分かり、デスク用のメガネをつくったところ それまで悩まされていた肩こりや頭痛がなくなった というお話を伺いました。
考えてみれば 近くのものを見るようになったのは 人類の歴史の中ではつい最近のことです。生き物としての身体が それになじめなくても不思議ではありません。
私たちはつい 見える 見えない というところに気を取られますが、大切なのは 現代の生活がいかに生物としての人の身体に大きな負荷を与えているかに気づき、それに対処する方法を採るということではないでしょうか。
メガネをかけ続けていると眼が悪くなる と思っていた私は、裸眼で“見える”のなら裸眼のままがいい と考えていました。確かに 矯正視力のためのメガネなら そうかもしれません。しかし 身体の負担を減らすための 適切な道具としてのメガネなら、更に 心と身体を統合することをサポートするようなメガネなら、大いに使うべきなのだと しみじみ実感したのでした。
***
人は 毛皮も牙もなく 生物として生存するための機能を どんどん手放す方向へ 進化してきたように思えます。どうして 人は生物としての機能を外部化してきたのだろうか という問いを どこかで目にしたこともあります。
思うに、機能を外部化することで 人は (自身も含めた)変化する”動的な環境”に対応できるようになったのではないでしょうか。変化する環境や状況に対応できる道具を うみだす という智慧を持つことで。
ただ 今は、適切な道具がまだ揃い切っていない のだと思います。
メガネひとつにしても…。
環境を固定し維持しようとするのではなく、変動する環境 変動する地球に柔軟に対応できる技術を目指す動きも 芽生えています。
不要になったものを脱いで 必要なものを身につける…
意識においても 物質においても…
ひとは 合理的な(=理に合う)衣を 着脱自在に纏い続けることができる 初めての存在なのですね。
【加筆修正】
2024年2月8日(木)
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