先月の末、建築家の槇文彦さんが 新国立競技場の対案を出されました。
新国立競技場の国際デザイン・コンクールで最優秀賞となった案については、既に指摘されているような様々な問題から 私も 見直しを望む者であります。その対案として 2011年までの方針であった現国立競技場の改修案も含めて いろいろなものが提案されていますが、今回の槙さんの案の中で ひときわ私の目を引いたのは、“未来の人たちへ 現在の私たちが何を贈ることができるのか”を考え それを踏まえて示された オリンピック後の活用法についてです。
槙さんは、オリンピックが終わった後 この施設を成人だけではなく子供も楽しめるよう 「国際子供スポーツセンター」(*仮称)を併設することを提案し、「この施設は、外苑東側の絵画館+銀杏並木道が大正の市民から我々への贈り物であったように 平成の都民の未来の子供達への贈り物になり得る。」とおっしゃいます。
私がこの案に強く惹かれるのは、現在 そして これからの人(特に子どもたち)には カラダの適切な動かし方をきちんと学ぶ場が必要であり、槙さんが提案する施設が その場になり得るのではないだろうかと、感じるからなのです。
言うまでもなく 脳はカラダの一部です。私たちの思考は カラダに支えられています。ハンディの有る無しに関わらず、私たちが 持てる可能性を発揮するためには、まず その土台である カラダが持てる機能をきちんと発揮できていることが不可欠ではないでしょうか。カラダのデザインに即した“合理的”な カラダの使い方ができるようにすることは クニづくりの根本である「人づくり」の第一歩だと思うのです。
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いま、スポーツトレーナーの中から 正しいカラダの使い方を伝えようとしている人たちが出てきています。以前の記事にも書いたように スポーツやダンスのプロの動きが 必ずしもカラダによいわけではありません。あるトレーナーの方は「プロのスポーツ選手は それが不自然だと理解した上で パフォーマンスがあがるカラダの使い方をしている」とおっしゃっていました。最近読んだ トレーナーの方が書かれた本にも、カラダには適度な硬さが必要であり 「そもそもヒトの股関節はその構造上、前後左右に180度開脚できるようにはできていません。通常、両脚は前後に140度前後、左右には90度前後しか開かないようにできているのです。(略)開脚は、ある意味異常な姿勢です。一般の人は、開脚をする必要も効果もありません。」とありました。しかし現実は、断片的な情報が溢れる中 “素晴らしいプロ”の動きを そこに至る様々な知識や努力が欠落したままあこがれ真似て 不適切にカラダを動かしていたり、体育の授業や カラダをケアし調えることを生業としている方達においても 間違った情報を提供していることが少なくありません。
理想は、保健体育の授業が適切な内容になり カラダに関わる仕事(*靴の製造・販売なども含めて)をしている方たちが適切な情報を提供できるようになることであり、それを目指して いまから環境や制度をととのえていく必要があるのですが、そのヒナ型として 槙さんが提案される子供向けのスポーツ施設を活かせるのではないだろうか、と思うのです。
私は、スポーツ施設のコンテンツについての槙さんの提案に、「ヒトのカラダは本来どのようにデザインされていて どのように動かすのが理に適っているのかを知り、それに基づいて動かす」ことを加え 脳科学や医学の分野からのサポートも得ることを提案したいと思います。更に言うなら、カラダは意識や環境と不可分な関係にあるので “自らのカラダを置き その中でカラダを用いる「環境」を 自然と共につくっていく”視点から、自然環境や地球学のような分野のサポートも得たコンテンツができると良いなぁ と思うのです。その視点は、素晴らしい人工の杜を持つ神宮の 外苑の場がスポーツ施設のために提供されていることとも つながっていくように思えます。(*常時更新され続ける「触れる地球」も どこかに置きたいものです。私たちのカラダを取り巻いている ある意味では私たちの皮膚の延長とも言える地球の、まさにリアルタイムの状態を観ることができるのですから。)
内苑の杜が その維持や調査において 生物に関わる様々な分野の人たちを緩やかに結びつけ それらの最新の知見が統合され生かされているように、外苑のその施設が もう1つの自然であるカラダに関わる様々な分野の人たちを緩やかに結びつけ それらの最新の知見が統合され生かされ伝えられる場にできるなら、あの代々木の地は 新たに代々伝えうるキ(機・輝)を得ることになります。
大正の人たちは、
人が関わることでよりよい環境や自然をつくることができる例を示してくれ
その「現物」を 贈ってくれました
いまを生きる私たちは、
未来の人たちに
よりよい身体や環境をつくっていく 一つの起点となるような
情報発信と体験の場を贈ることができます
そういうアプローチによって
内苑と外苑が
より有機的につながっていくようにも思えます
延びに延びていた国立競技場の解体工事は 9月29日から始まるようです。
解体されてしまえば 改修の可能性は消えてしまいますが、「有蓋で12日間の音楽中心のイベントと 無蓋で365日大人も子供も楽しめる環境の どちらを貴方は選びますか」という槙さんの問いかけは生き続けますし、よりよい未来を創る機会も まだ充分に残されています。
いま、わたしたちは どんな未来を描き、何を伝え 何を手わたしていくのでしょう。