Earth Design Project

ひとりひとりから始まる あらたな ヒト/HITO の ものかたり
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沈黙を破る


 パレスチナへの旅について記していたら その頃の出来事が次々と思い起こされてきました。

 パレスチナから戻ってしばらくした頃、イスラエルから激しい攻撃を受けた2002年にパレスチナへ行った方の話を 期せずして聞く機会がありました。参加したツアーの第1回目がその年であったことから 当時の様子はツアー中にメンバーからも聞いており 記憶に留まっていた年でもありました。
 その方の話のなかで 最も私のこころに強く残っているのは、ガザ地区への検問所でのイスラエル兵とのやりとりです。

 ガザ地区へ入れると聞いて向かった検問所。しかし 警備の兵士は「入れない」と言います【*】。しかし 「何かのスイッチが入った」彼女は引き下がらず 兵士に「どうして?」と尋ねます。兵士が答えると それに対してまた「どうして?」と。幾度となく繰り返された「どうして?」の後 その兵士は大きくため息をついて こう吐き捨てたと言います。

   「君が言いたいことは わかってるよ。
    僕だってこんなこと何の意味もないことぐらい分かってる。
    でも どうしようもない。変えられないんだ!!」

   「変えられる!」
   「変えられない!」
   「変えられる!」
   「変えられない!」
   「変えられる!」
   「I can not !!」
   「You can !!」
   「Can not !!!」
   「Can !!!」

 気がつくと、周りの人たちが遠巻きに 二人のやりとりを観ていました。
「君と話せてよかった」 と兵士は最後にそう告げたそうです。


 イスラエルは徴兵制を採用しています。
 その徴兵の期間 パレスチナ自治区内に勤務し 教えられてきたことと矛盾する現状を目の当たりにした若者が、「沈黙を破る」という活動を始め 自分が見てきたこと そしてそれらの行為がいかに人の心を蝕んでいるのかを 伝えています。
 彼らは イスラエル国家の教えを忠実に信じてきた若者です。社会的には優等生とみなされる若者です。その活動を記録した映画の中で語られるように 「そんな彼らが伝えるからこそ 彼らの言葉は重みを持ち 説得力がある。兵役拒否をした人には耳を貸さなかった人たちも 彼らの声は聞かざるを得ない」というのは その通りなのかもしれません。映画の中でメンバーの一人が 自分の受けたトラウマから心を回復させるためにこの活動をやっていると 打ち明けています。


 沈黙を破る


 自分を自分で救うために…




【*】このようなことは私が行った当時も日常茶飯事でした。法律の適用以前の話で 軍令によってイスラエル側は好き勝手に行動しており、対象は検問所に留まらず 一方的な入植や分離壁の建設などなど あらゆることに及んでいました。

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