Earth Design Project

ひとりひとりから始まる あらたな ヒト/HITO の ものかたり
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つらなり

 5月の末に、宮城県で自然栽培のお米を作っている方のお話をうかがう機会がありました。
 小学校教諭を辞し、「自分でも理由はよくわからないけれど 何かに背中を押されるように」有機栽培でのお米づくりを始めたUさん。ある年 トラクターが壊れてしまった為にぬかるんだままになった一枚の田んぼを無肥料で作付けしたところ、それまでの栽培では決して再現できなかった “幼い頃に食べた味”に近いお米ができたことが、無肥料栽培へ移行するきっかけとなりました。

 「うれしくて うれしくて うれしくて」

 なかなか収穫量が上がらない時期を経て ようやく充実した実りの秋を迎えたときの気持ちを、Uさんはそう表現します。

 「地球とつながった という感覚があって…」

 徐々に育ってゆく稲を支えるように、大地から 目には見えないエネルギーのようなものが 伸びていっている印象があったと言うUさんは、そのイメージを手を使って示してくれました。一方の手は 籾から苗になり稲穂が垂れてゆく稲の動きを現わしながら上弧を描き、もう一方の手は 稲を支える不可視のエネルギーの動きを現わしながら下弧を描き、同じ場所からわかれて弧を描いていった両の手は やがて 反対側の一点で出合います。
 太陽と水と土と風だけで稲が育つ場に居合わせ 目の当たりにしたUさんには、自分の 米づくりといういとなみが 地球とつながり 自然な循環の中にあるように思えたのです。

 「田んぼ」という小さな場でつながった 様々なはたらきといのち。
 その話を聞きながら 私は、同じ宮城県で 山に植林をしている牡蠣養殖業者の方の話を思い出していました。

     豊かな海を取り戻すには
     豊かな森と川と
     流域に住む人たちの豊かなこころが 必要

 更に広い視野で観れば、森から湧き出る水は 海から蒸発し 大気を通って 山に降り注ぐものから生まれます。そして それらは田畑にも注がれ 田畑を通って 川へ そして海へ そして空へとめぐってゆきます。すべては地球のいとなみと分ちがたく、いえ 地球のいとなみそのものとして…。
 通常 そのつながりは「循環」と呼ばれますが、閉じた環をめぐり続ける印象を受けるその言葉よりも


未来へと続く 途切れることのない ひとつらなりの流れ

と言った方が 私にはしっくりきます。
 それは 物理的な場だけでなく、生産と流通と消費(*本当はこういう分類は使いたくないのですが 便宜上ここでは使わせていただきます)というような、人と人の関係や意識の場においても在りうるもので、また なくてはならない大切なものだと思うのです。

 先日の集まりのテーマのひとつは、放射性物質とどう向き合って生きてゆくか。
 たまたまなのかもしれませんが、自然栽培の作物からは あまり放射性物質が検出されないという話を耳にします。しかし高い数値のために倉庫に留め置かれている小麦もあり、そして自然栽培歴9年のUさんのお米からは 放射性セシウム134と137が合計で4.7Bq/Kg検出されました。その会を用意して下さった流通業者では お米に関しては検出限界値1Bq/Kg以下のものを原則として取り扱い、20Bq/Kg以下のものは 情報を公開した上で販売する基準を設けています。その基準に従い Uさんのお米は数値を公表して販売されていますが、不検出のお米の中にあって なかなか売れない現状があります。

 その会は 何か結論を出すのが目的ではなく、作り手さんと直接出会い 話を聞く中で ひとりひとりが自分の問題として考えるきっかけの場として 用意されたものでした。
 「もっと汚染されているものを 知らされていないから気にせず食べているはずなのに、数値を知らされると気にしてしまう」、「Uさんのお米をとても食べたいけれど 0歳児の子どものことを考えると、不検出のものがある中で それを選ぶことは今の私にはできません。(放射性物質に汚染されたことが)とても くやしいです」という声もありました。
 Uさんが育む天日干しのお米は とってもおいしいのです。

 放射性物質が検出されたお米のこと
 その事実を それぞれが受け止め 自分のこととして考えること
 また 今回のような場が存在すること
 そして 自然栽培や今回のような場・つながりが これからつくってゆく変化…
といったことがらを トータルに捉えたとき、私には すでに 目には見えない領域で「未来へと続く 途切れることのない ひとつらなりの流れ」が生まれ 育まれているような気がしました。

 それは いわゆる「他人とつながる」という感覚とは 違うものです。
 つながっている というよりは
   同じ流れのなかに在る
   同じ方向を向いて歩いている
という感じでしょうか。
 自然栽培を支えている人たちと出会うと、いつもそんな感覚に包まれます。

 放射性物質が検出された土や作物 そして 津波の被害を受けた農地が、今後 自然栽培という在り方によって どう変化してゆくのか、見守っていきたいと思います。



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